タックス・ニュース 第241号 2017年1月号

タックス・ニュース 第241号 2017年1月号

トピックス

労働保護法改正①

  • 仏暦2560 (2017)年1月4日の閣議において、労働省の提案の仏暦2560 (2017)年改正労働保護法(第5号)の法案が承認され、以後、国策会議を経由して国家立法議会へ提出される。法案の主な内容は、以下の通りである。
    1. 賃金委員会に被雇用者グループごとの最低賃金標準の決定権限を付与する旨の規定の追加。
    2. 雇用者の就業規則の複写を福利厚生及び労働者保護局長又は局長より任命された者へ提出義務を定める第108条の廃止。
    3. 定年退職は解雇に該当する旨の第118/1条の規定の追加。雇用者が被雇用者の定年となる年齢を特定していない場合、満60歳になった被雇用者に定年退職させるものとし、雇用者は、法律に従って解雇補償金を支払わなければならない。
    4. 定年退職時に解雇補償金を支払わない雇用者に対する罰則を定める第144条の追加。
  • 現在の労働保護法においては定年退職を解雇として扱うことが規定されていないため、雇用者は、雇用契約に従って解雇補償金を支払うか否かについて決定することができる*。しかし、改正労働保護法が適用された場合には、定年退職は解雇として扱われ、雇用者は、定年退職を理由として解雇される被雇用者に対し解雇補償金を支払わなければならない。雇用者が解雇補償金を支払わない場合には、追加された第144条に従い罰せられる。また、雇用者が定年退職した被雇用者を再雇用することを望む場合には、雇用者は、被雇用者が従来の雇用契約に基づいて授与されていたものと同等の福利厚生を支給しなければならない。
    • * 但し、過去の判例では、就業規則で定年制度を設けている場合、定年による解雇は解雇補償金の支払いを要する解雇であると解されています。

労働保護法改正②

  • 仏暦2560 (2017)年改正労働保護法(第5号)において、児童の雇用に関して以下の罰則が規定されている。
    1. 第144条第1項は、第144条(1)、(2)、(3)に改正されている。第144条(1)及び(2)については、従来の第144条第1項と同様の内容が規定されている。第144条の(3)において、労働省が定める年齢以下の児童に特定の業務に従事させることに関する罰則が追加されている。
    2. 第148条は、第31条のみに違反した雇用者に対する罰則に改正されている。違反した雇用者は、1年以下の懲役若しくは200,000バーツ以下の罰金に処し、又はこれを併科される。
    3. 15歳未満の児童の雇用について規定する第44条などに違反した雇用者に対する罰則を規定する第148/1条が追加されている。違反した雇用者は、当該被雇用者1人につき400,000バーツ~800,000バーツの罰金もしくは2年以下の懲役に処し、又はこれらを併科される。
    4. 18歳未満の児童の雇用について規定する第49条または第50条などに違反した雇用者に対する罰則を規定する第148/2条が追加されている。一般的に、違反した雇用者は第148/1条と同様の量刑となる。しかし、被雇用者に精神的及び肉体的な損害を与えた場合には、当該被雇用者1人につき800,000バーツ~1,00,000バーツの罰金もしくは4年以下の懲役に処し、又はこれらを併科される。

観光ビザでの入国の制限

  • 仏暦2559 (2015)年ビザの種類の審査、例外及び変更に関する手続、方法及び条件を規定する外務省令に第13条3項が追加された。同条項によれば、入国審査所または国境の審査所を経由しての観光ビザでのタイへの入国は、マレーシア人を除いて暦年で2回までに限られる。

投資委員会布告1 / 2560号

  • 投資委員会布告1/2560号(主題:プロジェクト検討小委員会の権限と責任の変更)が発行され、小委員会に以下の事項の承認権限が付与された。
    1. 投資額(土地取得代金と運転資金を含まない。)200百万バーツ以上2, 000百万バーツ未満のプロジェクト。
    2. 輸出目的の製品の製造に関する、投資額(土地取得代金と運転資金を含まない。)2,000百万バーツ超のプロジェクト。
    3. 投資額(土地取得代金と運転資金を含まない。)2,000百万バーツ超のプロジェクトに関する、変更、投資奨励事業の検査、承認された価値の10%を超えない範囲での免税恩典の付与。
    4. 全てのプロジェクトに関する操業開始通知期限*の延長及び事業の拡張。
      • * 但し、過去の判例では、就業規則で定年制度を設けている場合、定年による解雇は解雇補償金の支払いを要する解雇であると解されています。

投資奨励法改正

  • 投資奨励法は2017年に改正された。主要な改正点は以下の通り。
    1. 第7条3項、第20条(4) 及び(20)の廃止。
    2. 第11/1条の追加。BOI委員会は、投資奨励事業の実施状況を評価し、恩典を付与するために少なくとも2年に一度は投資奨励事業を評価できる。
    3. 第13/1条の追加。BOIは、第三者を任命し、投資奨励事業と恩典の審査、管理及び評価を実施させることができる。
    4. 第16条3項の変更。投資奨励を受けた事業は、輸出及び海外での販売を目的とする事業に含まれてはならない。
    5. 第30/1条の追加。研究及び開発目的での原材料の輸入に係る関税の免税恩典が追加されている。
    6. 第31/1条の追加。高レベルの革新的技術を使用する事業における13年以下の法人税免税恩典が追加さている。
    7. 第31 / 2条の追加。法人所得税免税恩典を受けていない事業において、当該事業において最初に収益を獲得した日から10年間は、純利益の70%以下の範囲で投資額をそこから控除できる恩典が追加さている。
    8. 第32条の変更。BOI委員会は、第31条及び第31/1条に規定する事業において、10年以内の法人所得税の免税または5%以下の税率の減税を決定することができる。
    9. 第32/1条の追加。純利益または純損失の計算は、歳入法典に準拠しなければならない。*
    10. 第34条の変更。第31条及び第31/1条に規定する事業における配当の際の免税恩典が追加されている。
    11. 第36条の変更。第36条 (1) (2) 及び (3) により、輸入及び輸出における関税の免除恩典を受けたものは、関税法ではなくBOI委員会の規定する条件に従わなければならない。また、第36条(4)は廃止されている。
      • * これは、昨年の最高裁判決(タックスニュース12月号でも掲載)により繰越欠損金計算の方法について複数のBOI事業の損益を通算しなければならないとされた歳入局逆転勝訴判決に基づくものであろう。

競争力増進対象産業法の制定

  • 仏暦2560 (2017)年2月、競争力増進対象産業法が制定された。主な内容は以下になる。
    1. 対象産業とは国家の有効性に資する産業であり、経済、社会、及び安全に高い利益をもたらし、競争力を増進するものである。対象産業は新しい産業であり、国内では生産やサービスの提供を行わず、高度な技術と知識を利用することで革新をもたらすような産業である。
    2. 対象産業となる企業はタイで設立された法人でなければならない。
    3. 対象産業における特権は以下となる。
        1. 法人所得税の免税または減税以外の投資奨励法における機械装置、原材料、及び必要資材に関する特権。
        2. 当該事業で収益を得た日から15年以内の法人所得税の免税。
        3. 投資、研究及び開発に関する支出に関する政策委員会からの資金援助。
        4. 法人所得税免税恩典の消滅した日から5年間の繰越欠損金の使用。
        5. 歳入法典の規定による課税所得の計算。
        6. 法人所得税免税期間は源泉徴収は不要。

中小企業会計基準(SME基準) - 税効果会計について(つづき)

7.税効果会計の「損益アプローチ」による説明~その4(仕訳)

次に例題の仕訳を示してみます。

2017年度
Dr. 繰延税金資産 Deferred tax assets 40
Cr. 法人税調整額 Income tax expenses 40

2017年度には減損損失による期間差異200があり、ずっと検討してきたように、財務会計上は法人税費用を減じる効果があっても、税効果会計上はこの効果がないため、(財務会計の世界で考えているのですから)この200にかかる法人税のー40については、税効果会計上、当期の法人税に影響させる、つまり、含ませなければならない、とこういうことですから、貸方側に法人税額を記入します。

ここでは、「法人税調整額」という勘定科目を使用していますが、これは日本の税効果会計の用語法に倣っているだけで、単に「法人税」としても構いません。もっとも、税効果会計の適用対象となる税目は、いままでの税効果会計の目的、財務会計上の当期利益と対応させるべく、当期の税金費用を計上することにあるのですから、当然、税効果会計の対象となるのは、「利益」に係る金額を課税標準(課税の対象)とする税金になります。これはSME基準でも同様です。日本の場合には、法人税にほかに、均等割額を除く住民税や、所得割部分の事業税なども含まれるため、日本の税効果会計上の勘定科目は、法人税等調整額と「等」が入っています。

借方側は、単に、この税効果部分の40を次期以降に繰越すという経過勘定(deferred and accrued accounts)くらいの意味合いがあるにすぎません(ここは、後述するBSアプローチの税効果会計とは大きく違う点ですが、詳しくは、その時に説明します。)。なお、ここでは、繰延税金資産という勘定科目を使っていますが、これは、BSアプローチの税効果会計で使用されるべき用語法で、ここでのPLアプローチによる用語法では、単純に「繰延税金」という勘定科目のほうが適切かもしれません。

なお、タイでは、今のところ、「利益」に係る金額を課税標準とする税目は、法人税だけです。

さて、2018年度は、税効果会計を適用する事象がないので、仕訳は生じません。

2019年度
Dr. 法人税調整額 Income tax expenses 40
Cr. 繰延税金資産 Deferred tax assets 40

 2019年度には、減損損失を適用した機械が売却されたので、税務会計上は、売却損40が損金として計算されますが、財務会計上は、売却による損益は発生しておりません。したがって、財務会計から見れば、当期の法人税納付額は、法人税費用としては40だけ過少に計上されているので、法人税40を加える(借方の法人税調整額)、一方、繰越されてきた繰延税金を消す(貸方の繰延税金資産)ことになります。

8.税効果会計の「損益アプローチ」による説明~その4(適用税率と発生主義)

適用税率は、どうするのか。税効果会計でよく尋ねられる質問ですが、これを考えて、PLアプローチのまとめにしたいと思います。

例題で、もし、2017年度の決算期において、当期適用税率20%が、2018年度以降には30%になることが分かっていたら、税効果会計で適用すべき税率はどうなるのか、ということを考えましょう。

PLアプローチでは、当期の利益と当期の法人税費用とが対応することを目的としています。ですから、当期の法人税費用金額が財務会計上の当期利益に対応するように調整すればよいので、将来の30%の税率は関係ありません。つまり、将来の税率は無視することになるのです。

ところが、一方でこう言った質問が生じるかもしれません。「でも、実際に減損損失が税務会計上も認識されるとき、つまり、機械200が売却されるときの税率は30%のはずなのだから、そのとき、税務会計上の法人税納付額は、60の分、財務会計上の税金費用より少なくなるのではないか?つまり、繰越してきた40と違いが出てしまう。」 これは、良い質問です。ここが、まさに貸借対照表アプローチ(BSアプローチ)がIFRSで採用された重要な理由の一つです。これについても後述しますが、とにかく、PLアプローチでは、当期の利益金額が重要と見るのです。

当期の利益金額が重要というのは、伝統的な会計理論でいう「会計は適正な利益を計算することを目的とする」という観点からは、大変に納得しやすい話です。

「発生主義」は、元来、収益費用の認識基準です。正確な発生主義の定義は案外と難しく、論者によって様々ですが、一般には、現金主義と比較して、費用または収益の認識・測定については、現金の収支によらず、費用または収益が発生したという事象(event)に着目して、これを認識する(計上する)、といったほどの意味です。当期の費用収益を発生主義で認識して、その差額である当期利益こそは、企業の利害関係者の意思決定に有用な情報であり、結果として、その利害関係を調整する役割も持つ、と筆者は何十年も昔に学んだ覚えがあります。ただし、現在のIFRSや米国基準の思考では、発生主義は、費用収益に係るものというよりは、むしろ、資産負債に係る概念になっています。これも、SME基準が採用するBSアプローチが登場する理由の一つですが、これも後述いたします。

さて、税効果会計は、(PLアプローチのもとでは)当期利益を発生主義で計算するためのもの、とも言えます。つまり、「当期の法人税費用は、発生主義によるならば、実際納付金額ではなく(財務会計上の)当期利益に応じた金額で計上すべきである」として税効果会計が適用される、と説明ができます。

本当にそうでしょうか?例題を見て検討しましょう。

税効果会計の適用前の表で、各年度の企業活動の成果である利益を検討します。まず、税引後利益を見てみましょう。2017年度は40ですが、これと比べて、2018年度は80と2倍、2019年度には280と7倍というように税引き後利益金額が増加しています。さて、本当に、2017年よりも2018年度や2019年度のほうが、それほど企業活動の結果がうまくいったといえるのでしょうか。税引前当期利益を見ると、各年度の金額は、100、100、300となっており、2017年度と2018年度は同額で、2019年度の3倍の成果が上がっているだけです(「だけ」といっても3倍の改善は大きいのですが、そこは無視してください)。これは、法人税という費用項目が影響してしまったため、2019年度の企業活動の成果が過大に表示されているのではないでしょうか。

次に税効果会計の適用後の税引後利益を見てみますと、各年度の金額は、80,80,240となっており、税引前利益金額と同じ程度の推移となっています。税効果会計は、税引後の利益についても、同じような成果を表すことに成功している、そう見てよいでしょう。

以上の説明で、税効果会計の意味がお分かりになったかと思います。そして、税効果会計の実務とすれば、期間差異を解消するように処理をすればよい、つまり、法人税申告書PND50の損金否認項目などの調整項目だけを着目して、そのうち、寄付金や受取配当金のような永久差異をのぞいたものだけを処理すればよい、と言えると思います。そう考えれば、税効果会計といっても難しいものではないと思えるのではないでしょうか。

しかし、このやり方で解決するのは、80%くらいです。なぜなら、SME基準は、既述のように、PLアプローチを採用していない、BSアプローチを採用しているからです。

最新法令一覧表

重要法令・ルーリング全訳・解説

最高裁判所判決要旨 第1762/2559号

個人所得税が非課税となる株式取得の意義

歳入法典改正法 (第44条)

仏暦2560年、所得税の免除を定めた歳入法典に基づく勅令 (第630号)

歳入法典第86/4条並びに第86/5条に定める特に完全な様式での税額票作成に係る規則

財務規則 第324号 (仏暦2560年)

所得税に関する歳入局通達 (282号)

物品又はサービスの購入における実際の支出に係る免税に関する規則、手続き及び条件

歳入局通達 第ポー 154/2559号

歳入法典第65条第3項に基づき所得と費用を計算する際の、歳入法典第65条の2(4)に規定する「正当な理由」に関する考察

歳入局通達 第ポー 155/2560号

歳入法典第86/4条並びに第86/5条に定める特に完全な様式での税額票作成に係る規則

歳入局ルーリング 第ゴーコー0702/8336号

海外にロイヤルティ料を支払った場合の源泉徴収税及び付加価値税について

歳入局ルーリング 第ゴーコー0702 ポー 10011号

製品を海外へ輸出した場合に係る付加価値税について

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